慟哭|ぬくもり1-13

 かるがもは、今日も朝から大賑わいを見せていた。この一風変わったパソコン教室に通って来るのは、視覚に障害を負った者たちばかりではない。聴覚に障害を持つ者、身体に障害を持つ者、前向きにパソコンを習いたいと思う者なら、門前払いされることはなかった。 「ねえ由莉ちゃん、私って臭わない?」 葵が、隣に腰掛けた画伯を振り向かせたのだ。 「ほら、はあーっ!」 「なっ、何じゃ!?」「何なんじゃこの強烈…

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雨音|ぬくもり1-12

 真夏の天気予報ほど、当てにならないものはない。天国へたどり着くはずの翌日は、朝から激しい土砂降りの雷雨となっていた。図書館へ向かうのなら、着替えを一式用意しなければならない。他の誰かとの約束であれば、目覚めた途端、窓から空を見上げることもなかった。 「ありがと。ほんと助かった。」 「帰りも電話しなさい。ママ、家にいるから。」 幸運の女神が彩音に微笑んでくれたのだ。偶然にも、今日が薬局の定…

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情念|ぬくもり1-11

 あれ以来、孝子の症状は落ち着いていた。無論、着替えを済ませた直後に、冷水を浴びていた記憶もなくなっていたのだ。だが、それはある種の救いでもあった。認知症が進んでいることへの、本人の恐怖心や絶望感も拭い去ってくれるからだ。むしろ認知症の罪深さは、支える者の心を一方的に疲弊させてしまうことにあるのかもしれない。ケアギバーズハイと言って、どんな患者をケアする場合でも、介護者や介助者には、その負担に見…

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