明日|ぬくもり1-26

 遥香は、例えようのない無力感に打ちひしがれていた。ピアサポーターとして活動を始めて以来、こんなに自分を小さく感じたことはない。がん患者の心と向き合いながら、今日まで、微力ではあるが全力でサポートしてきた。相談者の知らないこと、知っておくべきことを、受け入れやすい表現で、分かりやすい言葉に換えて、微に入り細を穿つような粘り強さで伝えてきていた。暗闇の中で心折れそうな患者に、小さな灯りをともして上…

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親の心|ぬくもり1-25

 夜の都会の表通りは、帰宅の途に就く人の波と、飲食店やショッピングエリアに向かう人の波とが、残暑の居座る歩道の上で縦横にうねりを打っていた。車道ではヘッドライトの灯りが数珠つなぎとなって、そこかしこから、商品コマーシャルの音声や、けたたましいリズムのサウンドが、無秩序に入り乱れて大音響で聴こえてきている。まさに眠らない街のパワフルな光景だった。だが、裏通りに一歩足を踏み入れると、そこは歓楽街へと…

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アトリエ|ぬくもり1-24

 平日に街場のレストランでウエイトレスとして働き、土日だけショッピングセンターのレジ係をしている。オフィス街のレストランは、ランチタイムが売上の中心だった。1円でも多く稼ぎたい智美は、少人数で回す夜間の勤務にも交替で入れてもらっている。夕食のピークが過ぎれば、店は一気にヒマだった。最後はラストまでの遅番が、2人で閉店作業を行うのだ。調理場の消灯後が、彼女にとっては気の重い時間となっていた。 「…

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