宿った命|ぬくもり2-7

 生け花が、愛でる者たちを魅了してやまないのは、人工的に創りだされた“人間好みの美”であるからだ。自然の織りなす四季折々のそれとは異なって、計算され尽した瑕疵(カシ)のない方程式がそこにある。生け花の持つ力強さは、“刹那の命”にあった。ハサミで根を断つことにより、過去も未来も失ってしまう。花ひらくまでの過去からも、実を結ぶであろう未来からも切り離され、刹那を活かして魅せる今を生ききるしかなくなる…

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罠|ぬくもり2-6

 UGとは、Undesirable Guestのことだった。いわゆる業界用語で、ホテル関係者の間では、“招かれざる客”と訳されている。ちょっとしたホテル側のミスや対応のまずさに付け込んで、大声で威嚇するなど、営業妨害に等しい行為を意図的に行う不良客の総称だった。法律の知識にもたけていて、直接的な表現で金品の要求を自ら口にすることはない。多くは、人員の手薄な深夜に騒ぎを起こして、強圧的に呼び出した…

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小鳥|ぬくもり2-5

 何のために生まれてきたのだろう。何のために生きていくのだろう。自分がこの世に存在している意味が、いつの頃からか分からなくなっていた。ただ、起きて、食べて、空虚な一日をやり過ごして、時がきたら眠るだけ。何かを作り上げるわけでも、誰かの役に立つわけでもなかった。八重子の車を降りて、家の戸を開いた途端、ずっと引きこもってきた薄暗い空間が待っている。白原小紅螺は、誰もいない玄関にそっと腰を下ろした。彼…

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