新年|ぬくもり2-19

 新年を迎えたかるがもは、久々のヤングパワーで活気付いていた。冬休みの翔太と彩音、それに大輔を誘った京奈と果歩が顔を出したからだ。葵は嬉しくてたまらない。そんな、幸せいっぱいの彼女を見る画伯も、心沸き立つような想いに駆られていた。
「なるほどのう。翔太ほどのプレイヤーでも、すぐにレギュラーとはいかぬか。」
「はい、すごいです。」「高校とは全くレベルが違います。」
「でも、後半で競ってくると、ぜったい翔太さんが出るんです。」
先輩と呼ばなくなっていた。二人の仲が進んでいる証拠ではないか。葵は、笑顔を浮かべ、その会話を黙って聞いている。まるで息子と嫁が、否、失礼…、弟とそのカノジョが遊びにきたかのように、彼らの言葉の一つ一つを聞き逃すまいと耳を傾けていた。
「こないだも、交替した途端にシュートを決めて、それが決勝ゴールだったんです。」
由莉もだ。可愛くてしょうがない。皆が愛おしくてたまらなかった。
「ほら、このパソコン、しゃべるんですよ。」
大輔の隣にピッタリと張り付く京奈が言った。
「マジか。やばいじゃん。」
「しゃべるだけじゃなくて、画面の文字も読んでくれるんです。」
ピタリと反対側に張り付く果歩だった。これだけ猛アピールされていても、女性に優柔不断な彼にはどちらも選べない。その分、二人の恋の綱引きも続いていた。
「だはははっ!大輔はモテモテじゃのう!」「わしも背中でおんぶしてくれんか!?」
その刹那、京奈と果歩の恐い視線が飛んできた。
「だ…、だは…。」
しかし、思い余った翔太が相談を持ち掛けた時、それを聞いた葵の顔色が曇った。
「へえ。そんなに暗いの?」
息子は、父の苦悩を知っていた。就職が決まって意気揚々としているかと思いきや、言葉の端々に障害者として働く苦しさがにじんでいるのだ。健常者の頃は、成績トップの営業マンとして担当エリアを駆け回っていたらしい。事務職自体に馴染みがないのだ。否、相談の内容はそれではなかった。葵の顔が曇ったのもそのためである。
「はい。」「オヤジは瑞希さんのことを、大切に想ってるみたいなんです。」
「たぶん、瑞希さんもそうじゃないかなあって。」
彩音が付けたした。
「そうなの…。」
よりによって自分に相談するか。葵は心の中でそう呟いた。だが、どうすべきか分からない若い二人をほうってもおけない。彼らは、自分を頼りにしてくれているのだ。
「翔くんは?翔くんは、そうなってもいいの?」
一瞬、間があった。恐らく、彩音と顔を見合わせたのだろう。
「僕には、母の記憶がほとんどありません。」「とても大事に思う反面、勝手に母のことを想像したりするんです。」「もし、今のオヤジを見ていたら、どう思うんだろう。裏切られたって思うのかな。一生独りでいて欲しいって思うのかな。そんな風に考えるんです。」
「それで?」
「オヤジが言うみたいに、ほんとにやさしい人だったら。」「きっと僕に、オヤジを応援してやって欲しい。そう言って微笑んでくれるような気がします。」
目頭が熱くなるのを感じた。複雑な翔太の想いが伝わってくる。彼自身が、母に応援して欲しいと感じているのだ。恋しくてたまらなかったはずの母に、こう言い訳することで詫びているのかもしれない。これほど息子に愛されるヒロが、葵は羨ましくなった。
「オホホッ、おもしろくってよ。」「わたくしたちで応援して差し上げませんこと?」
まさかに、小紅螺と共に美玲が入ってきたのだ。教室の皆は身の危険を感じた。
「だはははっ!わしも乗ったぞ!」「お似合いの二人ではないか!?」
だが、葵からは何の反応もない。どうすべきか、真剣に考え込んでいるのだ。
「新春マラソンとかけて、もどかしい二人と説く。」
「おおっ、いつのまに座っておったのじゃ!?」「チャンラーはどうした!?」
「その…ココロは?」
力なく葵が返した。
「どちらも、ゴールを目指す勢いが必要です!チャンラー!な!な!」
「さすがですわ。おっしゃるとおりね。」「そう思いませんこと、葵さん?」
「だははははっ!葵に、さんまでつけたぞ!何のしかけがあるのじゃ!?」
「オホホッ、ヒロさんのために、暫く休戦致しますわ。」「恋の橋渡しっておもしろそう。」
葵と仲良くして欲しくて、美玲を彼女が連れてきたのだ。心配していた小紅螺はホッとした。
「どうするのじゃ葵?」「わしらの気持ちは決まっておるぞ!」
翔太と彩音も、京奈と果歩も、そして大輔までもが息を呑んでいた。皆が皆、橘葵の神的スーパーパワーに期待しているからだ。宏之と瑞希をゴールインさせるには、葵の力が欠かせない。ここまで折れてくれた美玲の好意も、無にしてほしくはなかった。
「ふん…。」「揃いも揃ってお節介な連中ねえ。みんなそんなにヒマなわけ?」
今度は、胸の奥が熱くなっていた。
「美玲はどこ?」
差し出した手を、八重子が美玲に握らせた。
「仕方ないわ。」「この元カリスマスーパーモデルに、あなたの力を貸してくれる?」
「良くってよ。」「かるがもの全員が、恋のキューピットってことですのね。」
「ははっ、大きなお世話の、パラリンキューピットって感じかしら、」
小紅螺は目頭を押さえていた。メンバーたちから歓声が上がったのだ。今、歴史的な同盟関係が結ばれた。宏之と瑞希のための、かるがも縁結びプロジェクトが動き出したのである。
「さあ!みんなで作戦会議を始めるわよ!」
葵をはじめ頼もしいメンバーたちに、翔太と彩音は満面の笑みを浮かべていた。
「ねえねえ、大輔先輩とサッカー大好きな京奈の出番も作って下さいねー!」
「浮気しない果歩と大輔先輩がデートするシーンのほうが、アクセス数上がりますよ!」
相変わらず、女の火花を散らす二人であった。
「わしをおぶってまいらぬか?」「デートの穴場をいっぱい知っておるぞ!」
相変わらず、どこまでも空気の読めない由莉だった。


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