姉妹|ぬくもり3-27

 たかが絵ではないか。渚はそう考えていた。しかも、障害者の描くものなど、話題性以外に、わざわざ菊川由莉に依頼した意味が分からない。遠縁の知り合いと言うが、地元にもそれなりの画家がいるだろう。三食付きで毎日温泉に浸かれるなら、材料費程度で構わないと引き受けたことも、如何にも売れない画家を思わせていた。その上、普段の会話が怪し気なのだ。きっと姉は騙されている。何か別に狙いがあるのかもしれない。アシス…

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踏み出す一歩|ぬくもり3-26

 まただ。葵はそう思った。なぜいつも、よりによって自分にばかり皆が相談してくるのだろう。勿論、恋愛の話は苦手ではない。長年連れ添った旦那に、胸のときめくはずもなく、いつも誰かに密かな想いを寄せて、乾いてしまいそうな心を潤わせているのであった。橘葵にとっての恋は、叶わないから楽しめる恋なのだ。ああだこうだと夢見るだけで、心がぱっと華やいでいく。運命の二人ではないのか。本当は相思相愛の関係。来世でこ…

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再出発|ぬくもり3-25

 人間にとって、他人に本音を語ることが如何に難しいか、自分の胸に手を当ててみれば、誰もが例外なくすぐ思い当たるに違いない。毎日の生活の中で、反射的に口にする罪のない無意識なものも含めて、皆が一様に大小さまざまな嘘をついて生きている。嘘という言葉に抵抗があるなら、遠慮や礼儀、謙虚さや協調性と、体裁の良い表現に言い換えても構わない。それでも、人は殆ど本音を語らず、差し障りのない言葉を選んで、上手にそ…

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