下心|ぬくもり3-14

 これが三度目だった。しかし、今夜は残業の後ではなかったのだ。偶然に偶然が重なって、スタッフ全員が、夕方には揃って帰宅していたのである。愛娘のために、誕生日のプレゼントを買いに行くという正美を、彼は、ごく自然に自分の車に乗せていた。買い物は、短い時間で終わっていた。その後の食事も、ファストフードで簡単に済ませたのだ。彼女が観たいと言っていた映画は、まさかに年下の男性との激しい恋に落ちる女性の物語…

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提案|ぬくもり3-13

 町の診療所に八重子を運んだのは、本人の強い希望があったからだ。仲居の一人から、イケメンの若い医師が大人気の医院があると聞いていた。今日が、彼の診察日であることもだ。急に蒼ざめて、立ち眩みがしたらしい。暫く安静にしていれば大丈夫。いつものことだから心配いらないと言う彼女を、夕食や宴会の挨拶回りで付き添えない凪乃が、念のため、手の空いたフロントの石垣と妹の渚に託したのである。夜の診察時間に何とか間…

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いけません|ぬくもり3-12

 松山俊哉が幸運だったのは、殆ど握力はなくても両腕が自由に動かせることだった。少なくともある程度の腕力さえあれば、自動車のハンドルを回すことができる。利き手の右手首をハンドルに固定して、左手でアクセル、ブレーキ、ウインカーなどを操作するのだ。自身の車椅子の出し入れも、腕の力が頼りだった。リハビリテーションルームには、乗り降りを練習するための本物の自動車も置かれている。自力での運転を目指す者、目指…

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