密告者|ぬくもり3-31

 夕食の弁当は、手付かずでコタツの上に置かれたままだった。初めて休みを取る凪乃は、慌てて洋服に着替えると、古い三面鏡の前に正座して入念な化粧を始めていた。渚から借りたイヤリングが。鏡の中の自分を見詰める彼女の心を華やがせたのである。ベッドの枕元で時を刻む目覚まし時計も、その鏡の一部に映っていた。もうすぐ迎えの時間なのだ。左右の反転した文字盤の針が、意地悪に逆回りして、時を贈らせているかのように感…

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視線|ぬくもり3-30

 小紅螺はさんざん悩んだ末に、友則との食事に出かけることに同意した。しかし、記念すべき初デートであるのに、やはり彼女の体力的な負担を事前に考慮しておかなければならない。自宅で家族がサポートしてくれる状態とは違って、彼がまだ病気について何も知らない以上は、高い緊張感などの精神的な負担まで考えておかなければならなかった。自然、予め制約を設けて、無難に過ごせる無理のないデートとなったのだ。送迎は、彼女…

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複製|ぬくもり3-29

 たらふく食った年配の守衛は、朝が早いからと独りで先に帰っていった。年増の事務員だけが、島のカウンターで手酌の酒を飲んでいるのだ。あれから2時間近くが経過している。今頃は薬の効果が完全に切れているだろう。何も言ってこないということは、相応に因果を含めて、社長の海野が上手に扱っているはずだった。相手の女将も馬鹿ではないのだ。不本意とは言え、彼に抱かれたことが実は幸運かもしれないと気付くだろう。した…

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